賃貸アパート経営を行う場合は、家賃収入の回収や空室対策などやるべきことは数多くあります。その中の1つとして税務処理があります。税務処理には2つのポイントがあり、1つは節税、もう1つは正確な処理です。その両方にかかわるものとして、必要経費があります。そのため、個人事業として賃貸アパート経営などの不動産投資を行う場合は、所得税の計算における必要経費のルールについて理解しておく必要があります。そこで、不動産投資をする場合に知っておくべき必要経費の基本知識と注意点についてお伝えします。

☆必要な経費にならないものとは

個人事業として不動産投資を行う場合には、所得税の確定申告をする必要があります。

その所得税の計算にあたっては、必要経費になるものとならないものをしっかり把握しておく必要あるでしょう。
必要経費とはその事業や業務によって収入を得るために直接必要になった費用のことをいいます。ただし、事業に必要で支出したものであっても必要経費に計上できないものもあります。そのため、どういったものが認められないかについては知っておく必要があります。まず、所得税や住民税は必要経費にできません。所得に対して課税される税金については、その計算対象の所得を変動させる必要経費に算入すると矛盾が生じるため算入できないのです。

また、所得税や消費税などの国税に関係する延滞税、過少申告税、無申告加算税さらには不納付加算税や重加算税など罰則的な性格を有する税金に関しても必要経費算入は認められません。地方税に関する延滞金なども同じ扱いになります。

また、貸付事業を行う事業主本人が故意または重大な過失があって支払った損賠賠償金も必要経費に算入できないことになっています。社会通念上必要経費に算入することがそぐわない賄賂なども認められていません。また、事業に関係ないプライベートの支出は家事上の経費と呼ばれ、当然必要経費扱いにはできません。さらに、事業とプライベート両方に関連する支出である場合は、確実に事業や業務にかかわる分として区分できる金額だけ必要経費に算入できることになっていますので、紛らわしいものや区分できないものを必要経費にすることはできないことに注意する必要があるでしょう。

☆事業的規模とは

所得税法上、事業的規模という考え方があります事業的規模とは、原則として、社会通念上、事業と呼べる規模だと判断される程度のものを指します。例えば、本業が会社員でサイドビジネスとしてワンルームマンション経営をしている場合は、一般的にはワンルームマンション経営は事業的規模とはいえないでしょう。一方、アパート1棟を保有して数多くの部屋を貸し出して賃貸事業を行っている場合は、その事業を本業で行っている可能性が高いです。この場合は、事業的規模といえる可能性が高いでしょう。

不動産の貸付けが事業として行われているかどうかによって、不動産所得の金額の計算上の取扱いが異なる場合がありますので注意が必要です。例えば、不動産の貸付が事業的規模であれば、事業を行っている上で生じた売掛金、貸付金、前渡し金などの債権の貸倒れなどで生じた損失を、その年の必要経費として計上できます。

一方、事業的規模でなければ、必要経費に計上することはできません。ただし、貸倒れた債権が発生した年にさかのぼってその元となる収入をなかったものとして所得計算をやり直し、税金還付を求める更正の請求をすることはできます。
また、アパートの建物などの資産について取り壊しや火災による滅失などがあったことによる資産の損失についても、不動産の貸付が事業的規模か否かによって取り扱いが変わります。事業的規模の場合は、発生した資産損失全額について、発生した年の必要経費として算入できます。必要経費とした結果、不動産所得が損失となったとしても全額認められます。

一方、事業的規模でない場合は、資産損失は、不動産所得の範囲内でしか認められません。つまり、資産損失の計上によって不動産所得をマイナスにすることはできないということです。基本的には、事業的規模で賃貸経営を行う方が、必要経費に算入できる範囲が広がります。

☆事業的規模の判別基準ってなに?

事業的規模の判別基準は、原則として社会通念で判断することになっています。本業で賃貸経営をしているなど、実質的に事業と呼べる程度の規模で行っている場合は事業的規模、サイドビジネスの場合など実質的に事業と呼ぶほどではない規模で経営を行っているのであれば事業的規模ではないということになります。しかし、その考え方だけで判断して税務処理を行っていくと、事業主の主観的な判断で事業的規模か否かが決まってしまう場合があります。税法上の扱いを分けている以上、主観的要素が含まれた状態で判断が行われてしまうと、納税者間で不公平が生まれる可能性があります。
そこで、所得税の基本通達によって形式的な判断基準の目安が設けられています。実務的には、その形式的な判断基準を使って事業的規模か否かを判断すれば、ほとんどの場合問題ないでしょう。形式的な基準は、一般的に5棟10室基準と呼ばれています。一軒家であれば5棟以上、賃貸アパートや賃貸マンションのような1棟で複数の部屋を別々に賃貸契約する場合は10室以上で賃貸を行っていれば、事業的規模に該当すると判断します。

☆青色申告ってなに?

個人で不動産投資を行う場合は、青色申告制度についてもよく理解しておく必要があるでしょう。所得税は申告納税方式がとられており、所得が発生している人が自ら所得を計算して申告と納税を行うことが基本とされています。そのため、極端な例を挙げると、どんぶり勘定でいいかげんに計算して作った申告書類であっても提出できることになります。

もちろん、税務調査という形でチェックがかかる仕組みにはなっていますが、複式簿記に則って帳簿をしっかりつけて決算書をまとめて申告書を作成する人と、どんぶり勘定で申告書を作成する人が同じ扱いだと、しっかり作成する人が報われなくなってしまいます。そこで、簿記のルールに則って帳簿をつけ、それに基づいて貸借対照表と損益計算書を作成する人は税の恩典が受けられる制度が用意されました。それが青色申告制度です。現在は、確定申告書はカラフルなものになっていますが、制度が作られた当時は青色申告者用に用意された申告用紙が青色だったため、青色申告制度と呼ばれるようになったといわれています。青色申告を行うためには一定の時期までに申請を行う必要があります。

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☆青色申告で経費にできるものとは

青色申告制度には数多くの税制上の恩典がありますが、必要経費算入についても青色申告者だけが認められているものがあります。それは、青色事業専従者給与です。個人事業として賃貸アパート経営を行う場合、家族を従業員として雇ってフルタイムで働いてもらい、アパートの管理業務などの業務を行ってもらうケースがあります。

青色申告でない場合は、家族に支払った月給やボーナスは少額しか必要経費算入が認められていませんが、青色申告を行っていれば、不相応に高い金額でない限り、全額必要経費として認められます。

また、必要経費ではありませんが、青色申告特別控除も青色申告者だけの特典です。不動産所得以外に事業所得があれば、賃貸アパート経営が事業的規模でなくても事業所得と合わせて65万円の控除が受けられます。事業所得がない場合は、賃貸アパート経営が事業的規模で行われている場合は65万円、そうでない場合は10万円の控除となります。なお、青色申告者だけに認められる一括評価貸倒引当金については事業所得だけが対象で、不動産所得の場合は適用できないことになっています。